何処からか伸びてきたか細い猫の鳴き声は、明らかに聞き慣れたものだった。
耳にした直後、されるがままに流されていたサナの足がピタリと止まった。 傍らで何やら老婆がブツブツと呟いていたが、今のサナには聞こえない。
鳴き声が上がった方に振り返り、キョロキョロと辺りを見回せば……他と比べて比較的明るい小道の先に、小さなシルエットをサナの瞳は捉えた。
崩れた壁から漏れ入る昼間の明かりで、そこだけがスポットライトを当てたかの様に不思議と明るい。
その日溜まりの下に、地面を興味深げに嗅いでいる真っ赤な猫が一匹…紛れもない、サナが遥々追ってきたティーがそこにいるではないか。
「…あ……にゃーにゃ…」
普段から人形の様に固まったサナの表情が、心なしかふわりと柔らかな笑みを浮かべる。
サナの足は自然と、相変わらず地に鼻をくっつけているティーの方へ向かった。…だが、手首に巻き付いた柳の如き老いた手が彼女を引き戻す。
「こっちぃ…こっちぃ…!」
繰り返される震えた声は、次第に苛立ちを孕んで凶悪なものへと変貌していた。恐怖さえ覚える老婆の声だが、サナには何も感じないようで…ただただ子猫の方へと歩こうとする。
最初は従順に思えたのに、途端に言うことを聞かなくなったサナに老婆は痺れを切らしたらしい。黒ずんだ歯を噛み締めながら尖った鉤鼻から荒々しい鼻息を漏らすと、もう片方の老婆の手がマントの中を探り出した。
数秒の間を置いて再び表に現れた老婆の手には…鈍い光を帯びた、鋭利な金属の色が握られていた。ろくに磨かれておらず、刃こぼれの激しいそれはびっしりと赤い錆がまとわりついている。
他にも赤黒い染みが点々と見られるが、それが何なのかなどサナには知る由も興味も無い。
ティーばかりに意識が向いているサナは、背後で息を殺した刃の気配に一向に気付かない。
老婆の握り締める薄汚れたナイフは静かに闇を裂き、その切っ先はじりじりとサナとの距離を詰めてきていた。
耳にした直後、されるがままに流されていたサナの足がピタリと止まった。 傍らで何やら老婆がブツブツと呟いていたが、今のサナには聞こえない。
鳴き声が上がった方に振り返り、キョロキョロと辺りを見回せば……他と比べて比較的明るい小道の先に、小さなシルエットをサナの瞳は捉えた。
崩れた壁から漏れ入る昼間の明かりで、そこだけがスポットライトを当てたかの様に不思議と明るい。
その日溜まりの下に、地面を興味深げに嗅いでいる真っ赤な猫が一匹…紛れもない、サナが遥々追ってきたティーがそこにいるではないか。
「…あ……にゃーにゃ…」
普段から人形の様に固まったサナの表情が、心なしかふわりと柔らかな笑みを浮かべる。
サナの足は自然と、相変わらず地に鼻をくっつけているティーの方へ向かった。…だが、手首に巻き付いた柳の如き老いた手が彼女を引き戻す。
「こっちぃ…こっちぃ…!」
繰り返される震えた声は、次第に苛立ちを孕んで凶悪なものへと変貌していた。恐怖さえ覚える老婆の声だが、サナには何も感じないようで…ただただ子猫の方へと歩こうとする。
最初は従順に思えたのに、途端に言うことを聞かなくなったサナに老婆は痺れを切らしたらしい。黒ずんだ歯を噛み締めながら尖った鉤鼻から荒々しい鼻息を漏らすと、もう片方の老婆の手がマントの中を探り出した。
数秒の間を置いて再び表に現れた老婆の手には…鈍い光を帯びた、鋭利な金属の色が握られていた。ろくに磨かれておらず、刃こぼれの激しいそれはびっしりと赤い錆がまとわりついている。
他にも赤黒い染みが点々と見られるが、それが何なのかなどサナには知る由も興味も無い。
ティーばかりに意識が向いているサナは、背後で息を殺した刃の気配に一向に気付かない。
老婆の握り締める薄汚れたナイフは静かに闇を裂き、その切っ先はじりじりとサナとの距離を詰めてきていた。


