亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


「…アゥー…?」

人の大河を難無く渡りきったサナの前には、整備されていないがとりあえず並べてみた、と言わんばかりに建ち並んだ商店の列が続いていた。
幾つも枝分かれした道は、最初から道を作って出来た訳ではなく、恐らく建物を立ててから自然に出来た行き当たりばったりなものなのだろう。

お世辞にも美味しそうとは言えない袋詰めの食料。
衛生的に怪しいくみ水。
何処からか盗んできたとしか思えない宝石の山。
痩せきって明らかに不健康そうな豚や山羊などの家畜。



…まともな商品の方が圧倒的に少ない店の群れ。テントの奥でフードを深く被った見るからに怪しい商人達は、店先をとぼとぼと歩いていくサナをじっと凝視する。


そんなろくな事を考えていないであろう数多の視線など露ほども知らず、そこに道があるからとでも言うかの様にサナは小道から小道へと入っていった。


灼熱の晴天が見下ろす砂漠の大地も、人が住処とすれば暗い影の溜まり場がそこかしこに生まれるものだ。

枝分かれをし続ける小道の先は、奥へ進めば進むほど外界から切り離されたかの様に屋根や壁ばかりが増えていき、サナの頭上は次第に薄暗くなっていった。

「………ウー?」

気がつけば自分でも何を目指しているのか分からないままだったが、とにかく足が動くのだ。
歩くという動作を身に付けてからは、きっかけさえあれば目的も無くサナは歩き続ける。



足がめり込む砂の感触にぼんやりと意識を集中しながらただただ歩いていたサナだったが……不意に、真っ暗な脇道から伸びてきた他人の手がサナの肩を掴んだ。


じんわりと肩から伝わってくる他人の体温に、サナのふわふわとした意識がゆっくりと注がれる。
のんびりと振り返ったサナの闇色の瞳には、腰の折れ曲がった老婆の姿が映った。
顔はフードで隠れて見えないが、杖を突いた手はブルブルと震え、微かに見えるしわだらけの唇は弧を浮かべているが…蝋人形の様にそれは青白く、そして震えている。