どうしてこんな時に重鎮である者達が不在なのか。あまりにもタイミングが悪すぎる。
報せる術は幾つかあるが…彼等の帰りを待った方が早いかもしれない。それまでに、こちらで出来る限りは調べておきたいというのもあるが。
ライは、周囲をぐるりと見回してみた。
三百六十度の視界。
今日の分の駄賃を数えている店先のオヤジ。
通りを行き交うマントの群れ。
無遠慮に砂埃を巻き上げていく荷車の連なり。
夜の仕事のために店に向かうお喋りな娼婦達。
日向と日陰が点在する赤い砂漠。
相変わらずの、見慣れた街並み。
見慣れた、風景。
その、何処かから。
(………僕等は…誰に見られている…?)
再度見回してみても、やはり怪しい視線は感じなかった。
騒音の中、視線など常に何処彼処で交わり、平行し、そしてまた交わるのだ。……そもそもここでは…誰からも見られない事など無いのかもしれない。
「ほらよ、今日の駄賃だ」
不意に聞こえてきたオヤジの声に、ライは辺りを探るのを止めて素早く振り返った。差し出されたなけなしの駄賃を笑顔で受け取ると、心なしか手の平の中で光る硬貨の数が数枚多いような気がした。
はて…?と首を傾げて顔を上げれば……何故かニヤニヤと笑うオヤジの顔が目の前に見えた。
店内から溢れる煙草の煙が鼻を突く。
「……今日は、おまけを付けてやる。お前の可愛い嬢ちゃんに美味いものを喰わせてやりな」
「………あ…は…はい」
お前の…と言うオヤジの発言からして、やはりサナとの事を明らかに勘違いされたままの様だが……彼のにやけ顔が、今まで見てきた中で一番機嫌の良いものだったため、ここは素直に受け取っておく事にした。
オヤジは強面な上に粗暴で人使いが荒い荒くれ者だが、人情はある人だ。
簡単に言うと、とりあえず良い人である。
いつもより多めの駄賃を懐に仕舞いながら、ライはオヤジに笑みを向けた。今日はサナも一緒である。情報収集は無しで、そろそろ引き上げよう。
「…ありがとう御座います」


