亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~







「―――ライ!聞こえないのか!」










二人の間に漂っていた言い知れぬ緊迫感を断ち切ったのは、突風の如く無遠慮に背後から飛び込んできたオヤジの怒鳴り声だった。

その威圧感と不意打ちなタイミングに思わずビクリと身体を震わせたフォトは、「じゃあね」とだけ声には出さず唇を動かし、ほうほうの体で通りの人混みに飛び込んでいった。
…話はまだ途中だ。引き留めようとも思ったが、周りの目もあるため伸ばしかけた手をライは引っ込めた。
そしてすぐさまくるりと背後の店に振り返り、怒り顔のオヤジの元へと駆ける。


「ライ、こちとらお前に構ってやる程暇じゃねぇんだ。呼んだらさっさと来い。………さっきのガキは誰だ?知り合いか?」

人混みの中、僅かな時間言葉を交わしていただけなのだが、客を相手にしている最中でもオヤジの観察眼は常に働いているらしい。
何ら重要ではないささやかな質問にも、眼をつける様なオヤジの目は何かを探るかの様に鋭い光を孕んでいる。職業柄、彼のこういった行為はきっと無意識なのだろう。

しかし隠し事をする事に関してはライもそれなりに長けている身だ。
感情を表には出さず、いつもの聞き分けの良い孤児のライに瞬時に切り替えた。

「いえ、知らない子です。道に迷っていたみたいだったので、教えてあげていたんです。…それよりオヤジさん、雑用は終わったんですから早く今日の分の駄賃を下さいよ」



いつもの明るい笑顔を向けて駄賃を要求しながら…ライは内心で、湧き出る不安感に苛まれていた。


フォトの言葉が頭から離れない。
フォト親子は、誰からあんな依頼を受けたのだろうか?

誰か…三槍に精通した別の何者かが存在する事がこれで分かった。

それは以前から聞いている、三槍の事を探っているという噂のスパイだろうか?
それとも別の者だろうか?


…どちらにせよ、正体不明の何者かの行動の真意が全く分からない。



(………オルディオはまだ帰らないし…白も黒も顔を出さないだろうな…)