亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

 
国政を顧みない理不尽な戦争大国となってからは、当然の如く、国民から様々な反国家思想が生じた。
類は友を呼ぶ様に、その思想は時の経過と共に膨張し、いつしか王族を脅かす程の存在と化した。

相手は戦に長けた国である。軍事力を持つ国家に対抗するには、同じく武力を持つしかない。
革命を掲げる者、国に憎悪を抱く者。反旗を翻す理由は各々で異なるが、私腹を肥やす国王を玉座から引きずり落としたい気持ちは一緒だ。

老若男女問わず、反抗意識が強い者ならば誰でもその思想に加わる事が出来るが、その大半は戦火で肉親を亡くした身一つの者達ばかりだった。
国家の監視の目から隠れながら彼等は仲間を集め、独自のルールを決め、各々で戦力を高め…いつしかそれらは、そこらの腕の立つ傭兵にも引けをとらない武力集団を形成していった。



目の上の瘤では済まされなくなった反国家組織を、国家が黙認している筈も無く。
これ以上の肥大化は許さぬとばかりに、国家はその重い腰を焦燥感にかられながら上げると、殲滅する勢いで激しい武力行使に出た。



身の危険を察した国王による攻撃は、それはそれは凄まじいものであったらしい。

数年、一番長い時で二十年から三十年と、間を挟んで単発的に続いた両者の攻防。
どちらも音を上げる事は無かったが、長きに渡る内戦の中で自然と優劣の差が生じていた。


この世界には人間や獣の他に……“魔の者”と呼ばれる、人の姿をしているが人間ではない生き物がいる。
緑の髪と美しい模様が浮かぶ瞳、全身が隈無く刺青だらけの、なんとも神秘的で不思議な存在の彼等は、独特の黒の魔術を扱う存在。言わば、生きた魔法そのものなのだ。

創造神アレスによって、国王の政の助力を目的として造られたとされる彼等は、生まれながらに各国の国王に絶対の忠誠を誓っている。
国に対して反逆の意識というものを持たない彼等は、主である王としか口をきかず、そして王の言うことならば何でも聞く。

いつ何時でも常に王の傍に仕えるこの魔の者は、その時の王によって平和をもたらす存在でもあれば………恐ろしい殺戮の道具にもなる。