首都やこの街からもずっと遠い郊外の街の、古い小さな宿屋にいる筈の少年が何故こんな所にいるのだろうか。
見たところ、いつも一緒にいるフォトの母親の姿は何処にも無い。…しかしこの人混みだ。見つけられないだけで何処かにいるのかもしれない。
そう思って仕切りに辺りを見回してみたのだが、そんな素振りのライの考えを読んだらしいフォトは、その疑問にさらりと答えをくれた。
「おいら独りだよ。ちょっと用事でこの街に来ているんだよ。昨日の朝からね」
「独り…って………危ないじゃないか!…まだここは治安が良い方だから良かったけど…でもそれも昼間だけだ。…お前みたいなのは、一番奴隷狩りや人攫いの恰好の獲物なんだから…」
孤児は勿論のこと、とにかく独りでいる子供は危ない。特に身を守る術を知らない十代前半までの子供の誘拐が後を絶たず、裏で奴隷などの商品として密かに売買されていると聞く。
ライ自身も、三槍に入る以前の孤独な時代では何度浚われそうになったことか。今思い出しても、腹が煮えくり返る思いだ。
「そりゃあそうだけど……孤児の振りをした方が目立たないし、足がつきにくいからね」
そう言って屈託の無い笑みを見せるフォトは、本業である宿屋の少年よりも、既に情報屋の端くれに染まってしまっている様に見えた。
反国家勢力に力を貸してくれるとはいえ、彼等の行動は非常に危険だ。その慣れが、逆に怖い。
「まぁ、そんなに心配するなって!…さっきオヤジさんからちょっと聞いたんだけど、最近になって急にバリアン兵士の警備が出てきたんだってさ。捕まってあれこれ尋問されるのも嫌だから、おいらは一旦家に戻るつもりさ。日が暮れる前にはもう街を出るから」
砂漠で出没する盗賊や魔獣から少しでも逃れるため、夕刻に砂漠を横断する大勢の行商人達の列に混ざって抜け出すつもりらしい。子供独りで歩くよりはその方が安心だ。
「…そっちの仕事もほどほどにな。前に僕が依頼した…例の蜃気楼の事だけど、こっちでも調べているから……あまり深入りしなくてもいいからな」


