亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


…まさか、自分の女なのかと尋ねられるなどとライは予想していなかった。
男女が一緒にいるというだけで、大人達はすぐにそういう方向へと話を持って行ってしまう。
からかわれる側からすれば、少しも面白くない。

苦し紛れに絞り出した答えは、自分でもお粗末に思える程で、簡単に嘘と見抜かれてしまっている事だろう。その証拠に、商人のにやけ顔は持続している。

「そうかいそうかい、ただの知人か。しかし、それにしてもえらい別嬪さんじゃねぇか。………それで?…その嬢ちゃんとは何処までいったんだ?」

「………………いくら馴染みのお客さんでも、僕、怒る時は怒りますよ…」

何て事を訊くのだ…と、若干顔を赤らめながらもじとりと睨み付ければ、商人は「おっとすまねぇな。野暮な質問だった」などと言ってにんまりと笑みを浮かべた。

…下手に怪しまれるよりは勘違いされていた方が良いが………これはこれで非常にばつが悪い。

ライの反応がお気に召したのか、調子に乗ってサナにも酔っ払いの冷やかしが降り懸かる。勿論、それが冷やかしである事の前にそもそも何を言われているのか分からないサナは、茫然と瞬きを繰り返しながら…何故かコクコクと頷いていた。サナ、そこは否定するところだよと内心でライは叫ぶ。
不愉快な視線から逃れる様に、未だに頬杖を突いたままうっとりとしているオヤジの元へと近付いた。

情報を買うべく訪れている別の客達を掻き分けて店先に回り込んだライは、そこに大人達とは明らかに違う小さな背中を見付けて立ち止まった。

自分の背丈よりも低いシルエット。その見覚えのある緩いターバンに、ライは首を傾げながら声を掛ける。

「……あれ…フォト?」

直後、ピクリと肩を揺らしたと同時に目前の見知った少年…フォトがくるりとこちらに振り返ってきた。
円らな幼い瞳がライを映すや否や、嬉しそうにフォトは顔を緩める。

「あ、兄ちゃん!相変わらず働いてる?」

「人を仕事中毒みたいに言うな。…でもどうしたんだフォト?こんな街にいるだなんて珍しいじゃないか…」