亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


「でも、まだ着替え、独りじゃ出来ないから。手伝って」

「…え、え?着替え?」

「明後日には、戻るから。それじゃ」

「ちょっと…リディア!」


自分を呼ぶ悲痛な叫び声は、彼女の耳に届いた筈だが無視されたらしい。こちらに振り返らず軽く手を振ると、言いたい事だけを言い終わったリディアはオルディオを連れて通路の奥へと姿を消した。


…あまりにも堂々とサナの世話を完全に一任されてしまったライは、しばし呆然と二人が消えた暗がりの先を凝視していたが…やがて、その場で力無く膝を突いた。
両手で頭を抱えながら、後ろで子猫に話し掛けるサナに視線を移す。


彼女の世話役は確かにライである。しかし男の身である自分には限界がある世話は、リディアに任せていた。そのリディアが、明後日まで不在だなんて…。

任せられたのならば…仕方ない。しかし、しかしだ………年頃の青少年に年頃の少女の世話は…だいぶ荷が重すぎるのではなかろうか。

やりにくいといったらないではないか…!
ただサナの世話をするだけだ、分かっている、分かっているけれど、色々と思春期の青年には目に毒なものだってあるではないか!自分は精神力でも試されているのか!何だこれ?何でこんな事で僕は悩んでいるんだ?
まるで変態じゃないかこれ?
へんた…。


「―――違うよ!」


わああ!…と嘆きながら地に額をこすりつけて独りで何かしらの葛藤をし始めたライを、サナは首を傾げて見下ろした。




一人でも歩ける様になってからは、好奇心に任せてフラフラと何処かへ行ってしまうため、彼女を常に傍に置いておかねばならない。
…かと言って、ずっとサナと一緒に隠れ家に籠もっているわけにもいかず、ライは仕方無くいつもの情報収集にサナも連れて行くことにしたのだ。




そして、今に至る。


案の定、サナの存在は情報屋のオヤジや顔見知りの商人達から不審に思われる事となった。
雑用をこなしている最中でも、いつサナの事について訊かれるかと内心ヒヤヒヤしていたのだが…。