亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


孤児の身なのだ。肉親はまずないだろう。第一、全く容姿が似ていない。
娘の方は、この砂漠の国で生まれた人間とは違う肌の色をしているし、少し観察をしていて分かったが…この娘、まるで見るもの全てが珍しいとでも言うかのように何度も周囲を見回している。…やはりその見た目通り、異国の人間なのだろう。

「…ほれ、見ろよオヤジ………あの娘、空き箱を凝視したかと思いきや急に角を噛みだしたぞ………箱だって事を分かってねぇぜ………異国の人間である証拠だ…」

「いや……さすがに空き箱くらい何処の国にもあるだろ………多分…」


いくら文化が異なるとはいえ、箱というものくらいは知っているだろう。それとも何だ……娘の生まれ故郷では箱を噛むのが風習なのか。
他国の異文化はきっと一生理解出来ない…とオヤジは顔をしかめる。


「…お堅いバリアンの人間は、肌や髪色が違うだけで酷い差別をするからな……異端者、異端者ってうるせぇよ。………経緯は知らねぇが…そういった理由でライがかくまってやっているんじゃねぇか?」

「頼まれ事には弱いお人好しだしな。その考えが一番妥当っちゃ妥当だが………………単純に、これだったりしてな」

「……これ…」

若干酔いの回った商人が、下品な笑い方であちこち抜けた歯を見せながら……オヤジに小指を立てて見せた。


小指を立てる…それが何を意味するかなど、野暮な事は訊かない。

あのガキに…小僧に………まだまだ嘴が黄色い子供に……女だと?



驚きからかショックからか黙り込んでいたオヤジだが、数秒の間を置いて再び口を開いた。
何か考え事をしているかの様な、やけに険しい表情。ほとんどが暴言や罵倒ばかりを紡ぐ傷だらけの厚い唇が、そっと…甘味のある淡い吐息を漏らしたのを、商人の目は見た。


「………恋人、か………愛の逃避行……いや、異端者同士の秘密の恋………壁を隔てた初々しい若い愛…か……」


…心なしか頬を染めて、そんな純愛小説のベタなフレーズを呟くオヤジの姿は、とにかく鳥肌ものだった。