最後に雨なんぞという奇跡にも等しい景色を目にしたのは、いつだったか。
朧気な記憶が脳裏に描くのは、薄っぺらい雲が珍しく群れで空を横断していく光景だが……その空を見上げれば、見飽きたを通り越して眼球に焼き付いた景色があるばかり。
いつもの様に、すこぶるご機嫌の良い灼熱の太陽がこちらを見下ろしている。
高みの見物だか何だか知らないが、お前は何様だ、眩しい、暑い、こっちを見るな…と内心で意味の無い悪態を吐くのにも、いい加減疲れてしまった。
とにかく、その日も地平線の彼方から太陽が顔を出してから既に暑かった。
変わらぬ酷暑。たぎる砂漠。鬱陶しい熱風。井戸に群がる人々。
変わらない。
何度も言うが、その日も何ら変わらないいつもの暑い昼間が繰り返されていた。
ある一点だけを除けば………と、よく冷えた酒を口にしながら、情報屋のオヤジは本の少し落ち着かない様子で……店のテントが作る日陰の片隅に、忙しく何度も視線を送った。
「ニャー」
「…アゥニャニャー?」
商人や怪しい人間ばかりが集まる、はっきり言って野郎ばかりのむさ苦しい自分の店から、猫の鳴き声と少女のか細い声が聞こえてくるなど…果たして未だかつてあっただろうか。
いや、無い。きっと無いに違いない。勿論これからもそんなほのぼのとしたものとは縁もゆかりも無いだろうと思っていた。
オヤジは思っていたのだ。
「……まさか…向こうから、寄りついて来やがるとはな…」
「―――今日の分の空き箱、こっちに積んでおきますからねオヤジさん。…あ、サナ…それはオヤジさんの荷物だから勝手に触ったらいけないよ。大人しくジッとして待ってて」
聞き慣れた声と共に店のテントの裏手から姿を見せたライ。
少ない駄賃に文句も言わず、よく働いてくれるこの青年が話しかけているのは、以前罠にかかっていたティーラの子猫。
そして問題の……見知らぬ少女だ。


