亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~



「………燈された火が戦火になるのも……もしかしたら、そう遠くないのかもしれない。………お前にはちっとも分からないよな」

「…ニャァ」

小首を傾げてパチパチと瞬きを繰り返すティーラに苦笑を浮かべると、ライは強弱を変えた絶妙な手綱捌きで、ガーラの進行方向を変えた。

荷袋に引っ掛けた方位磁石を一瞥し、進路を西へ変える。






「…お前を飼っていいか、皆に聞かないといけないな」

またそんなものを拾ってきて!…と怒られる覚悟は決めている。
動物の世話はバジリスクで手一杯だから、大半が迷惑そうな顔を向けてくるかもしれない………一人でも味方が欲しいところだ。










(―――…そうだ、オルディオが許してくれたら問題無いか)













なんたって彼は、自分達のいる反国家組織の頂点に立つ人間。

皆の長なのだから。























戦争大国、バリアン。

その傲慢さと貪欲な私利私欲故に多くの敵を作り、刃を振りかざし、戦火を撒き散らし、命を奪って屍を残していく。

三大国全ての民の記憶にあるバリアンは、こんな冷酷非道な姿しか無いのだが…。
大昔はそうではなかったという。
この国にも安穏の世があったなどと言われても、今のこの御時世だ。そんな馬鹿なと思いたくもなるが、古い歴史書で過去に遡ってみれば、それは事実だと分かる事だ。

では、この大国バリアンはいつから戦争大国として悪名を轟かせるようになったのか。
正確な事は分かっていないが、恐らくバリアン王二十世あたりからだろうと言われている。
その前に起こっていた大規模な戦争、『第二次神声戦争』が何かしらのきっかけとなったのではないかと学者達は推理するが、真相は定かではない。

現存する史料が少なすぎる事もあるため、古代史は特に、謎が多いのだ。
一部の学者曰く、古代の方が魔法の種類も多く、文明も多少進んでいたのかもしれないらしい。