亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


ど真ん中に一つだけ空いていた的の穴を、空を貫いてきた矢が再び塞ぐ。矢が細かな結晶となって消えていくのをただ見詰めながら、レトは再度弓を構え始める。


「………姉さんの方も……フェンネル側の国境も、同じ様な感じなのかな…」

「その点については、未だ確認が取れておりません。しかし恐らく、同様に監視役のバリアン兵士が配備されていると思われます」

「……今更遅いかもしれないけど…御用心されて下さい、と…フェンネルに急ぎ文を送るように」

「御意」

「それと………もう一つだけ」









戦の火種が、見え隠れし始めている。
言ってしまえば、それはずっと前から既に目にしていたのかもしれない。そんな根拠の無い確信を抱いていたのかもしれない。

見て見ぬ振りを、したかったのかもしれない。




だが、自分に嘘を吐くのもこれまでのようだ。
見えてきたのは、火種どころではない。


壁を隔てた先に見えるのは、妖しく揺らめく炎の瞬きだ。

あれはきっと………壁を越えて、燃え移るだろう。



…しかし、レトには分からない事がある。それはきっと、フェンネルの女王も抱く疑問の一つに違いない。
こんなにも、迫り来る炎の姿が見えているというのに。





一番重要な部分が、見えないのだ。


…一番、見たい部分が。
























「…何か起こった時のために…備えておこうと思う。…後で僕が書いた文を、アルバスに持って行かせて。……アルバスなら、何処に持って行けばいいか分かるだろうから…」

「御意、仰せのままに致します。ちなみに、その文の宛先は?」



一連の構えの動作を終えた半月の弓が、反れる限界まで開いていく。
狙いを見極めた利き目を一瞬細めると同時に、レトは呟いた。













「―――狩人に」












直後、何度目が分からない甲高い矢羽音の音色が、冷たい空気を裂き散らした。