ああ恐い恐い、と全く恐がってなどいない様子でノアは肩を竦めて見せる。報告書の内容の残忍さから、バリアン兵の容赦無い人間性が窺えるというものだ。
その非人道的で凶悪な面を昔からよく知るドールは、赤槍として敵対していた頃を思い出しているのか…無言で唇を噛みしめていた。
両手の構えを終えたレトは、視線の先にある小さな的を凝視したまま弓をゆっくりと持ち上げていく。深く鮮やかな紺色の眼光は、矢の様に既に的を貫いている。
「監視の理由は?」
「不明確です。武力拡大と思われる動きは以前からありましたが、それはバリアン国内に留まるのみ。内で磨いていた刃を外に向けてきたのは、これが初めてではないかと」
「ノア、君の予想でいい。その鋭利な刃を向けてくるバリアンから………君の目には、何が見える?」
弓を頭上に掲げた両手を、ゆっくりと前後に開いていく。強弓を反り返させていく細い弦からは、キリキリと甲高い悲鳴が上がる。
「不明確…と申し上げたいところですが、その様な戯言など陛下はお求めでは無いでしょうから、ノアははっきりと申し上げます。―――戦です、陛下。…言わぬだけで隠す気など毛頭無い、とでも言うかの様に、あからさまに血生臭い戦の臭いを漂わせている………ノアは、その様に思います…陛下」
二度も拒み、そして今回の三度目に関してはいつまでも返答を遅らせている平和協定への同意。
以前から行われているらしい、兵士の増大と武力の強化。
そしてこの度の…国境の監視。
難しい事が分からないレトにも、バリアンの不審な動きが臭わせるものが何なのか…薄々気付いてはいた。
フェンネルの女王とも、その事に関してははっきりと口にはしなかったが…互いに予想はしていたのだ。
「―――戦を、する気なのかな」
綺麗な半月を描いた弓が、空を裂く一瞬のけたたましい矢羽音を鳴り響かせると同時に、青白い閃光を勢いよく放った。
その非人道的で凶悪な面を昔からよく知るドールは、赤槍として敵対していた頃を思い出しているのか…無言で唇を噛みしめていた。
両手の構えを終えたレトは、視線の先にある小さな的を凝視したまま弓をゆっくりと持ち上げていく。深く鮮やかな紺色の眼光は、矢の様に既に的を貫いている。
「監視の理由は?」
「不明確です。武力拡大と思われる動きは以前からありましたが、それはバリアン国内に留まるのみ。内で磨いていた刃を外に向けてきたのは、これが初めてではないかと」
「ノア、君の予想でいい。その鋭利な刃を向けてくるバリアンから………君の目には、何が見える?」
弓を頭上に掲げた両手を、ゆっくりと前後に開いていく。強弓を反り返させていく細い弦からは、キリキリと甲高い悲鳴が上がる。
「不明確…と申し上げたいところですが、その様な戯言など陛下はお求めでは無いでしょうから、ノアははっきりと申し上げます。―――戦です、陛下。…言わぬだけで隠す気など毛頭無い、とでも言うかの様に、あからさまに血生臭い戦の臭いを漂わせている………ノアは、その様に思います…陛下」
二度も拒み、そして今回の三度目に関してはいつまでも返答を遅らせている平和協定への同意。
以前から行われているらしい、兵士の増大と武力の強化。
そしてこの度の…国境の監視。
難しい事が分からないレトにも、バリアンの不審な動きが臭わせるものが何なのか…薄々気付いてはいた。
フェンネルの女王とも、その事に関してははっきりと口にはしなかったが…互いに予想はしていたのだ。
「―――戦を、する気なのかな」
綺麗な半月を描いた弓が、空を裂く一瞬のけたたましい矢羽音を鳴り響かせると同時に、青白い閃光を勢いよく放った。


