ベタベタとくっついたまま我が子を愛でる親馬鹿な親の様に、ノアの細い手は仕切りにレトの頭を撫で続ける。…時々、匂いも嗅いでいる様な仕草も見えるが、あえて誰も咎めようとはしない。
見る側もされる側も非常に鬱陶しさを覚える光景だが、当の被害者であるレトは慣れた様子でされるがまま淡々と口を開いた。
これが三年も続けば、嫌でも免疫がつくというものである。
「ノア、本題を」
「御意に、陛下」
盛大に愛でられた状態のまま、柔らかな口調で発したレトのその一言に、ノアはパッと主から一歩離れて恭しく頭を下げた。
今までの寵愛振りは何だったのか…と目を疑うその切り替えの早さに、ドールは呆れ顔で溜め息を漏らす。
「つい先程、文が届きました。バリアンとの国境近くにある街からの報告文書に御座います」
「……報告…?………内容は?」
ノアの声に耳を傾けたまま、レトは下ろしていた弓の頭をゆっくりと上げる。馴染んだ弓の柄を左手で包み、右手に細い弦を滑り込ませる。
「ここしばらく無人だった国境沿いに、バリアン兵士と思われる人間の姿を見る事が多くなったそうです。こちらからの侵入を見張っているかの様に睨みをきかせているとか。……数日前には、この街から被害も出ています」
「……被害って?」
離れた場所から黙って話を聞いていたドールが、怪訝な表情で首を傾げた。ポツリと呟かれた彼女の問いに、ノアは間を空けずに平然と答える。
「殺しです。街の子供が一人殺されています。バリアン兵士がいるとは知らず、薪を拾おうと国境の辺りに近付いた際、襲われたそうです。投げナイフで胸を一突き」
そう言って胸の辺りを人差し指で差すノアに、ドールは顔をしかめた。レトは別段何の反応も見せず、そのまま弓の構えを取り始める。
「ここ数日の間に、それまで野晒しだった国境にいつのまにやらバリアンの監視が入っています。今はまだそこまで厳重ではないようですが、この分ですと間もなく……血眼の末恐ろしい兵士の壁が出来上がる事でしょう」
見る側もされる側も非常に鬱陶しさを覚える光景だが、当の被害者であるレトは慣れた様子でされるがまま淡々と口を開いた。
これが三年も続けば、嫌でも免疫がつくというものである。
「ノア、本題を」
「御意に、陛下」
盛大に愛でられた状態のまま、柔らかな口調で発したレトのその一言に、ノアはパッと主から一歩離れて恭しく頭を下げた。
今までの寵愛振りは何だったのか…と目を疑うその切り替えの早さに、ドールは呆れ顔で溜め息を漏らす。
「つい先程、文が届きました。バリアンとの国境近くにある街からの報告文書に御座います」
「……報告…?………内容は?」
ノアの声に耳を傾けたまま、レトは下ろしていた弓の頭をゆっくりと上げる。馴染んだ弓の柄を左手で包み、右手に細い弦を滑り込ませる。
「ここしばらく無人だった国境沿いに、バリアン兵士と思われる人間の姿を見る事が多くなったそうです。こちらからの侵入を見張っているかの様に睨みをきかせているとか。……数日前には、この街から被害も出ています」
「……被害って?」
離れた場所から黙って話を聞いていたドールが、怪訝な表情で首を傾げた。ポツリと呟かれた彼女の問いに、ノアは間を空けずに平然と答える。
「殺しです。街の子供が一人殺されています。バリアン兵士がいるとは知らず、薪を拾おうと国境の辺りに近付いた際、襲われたそうです。投げナイフで胸を一突き」
そう言って胸の辺りを人差し指で差すノアに、ドールは顔をしかめた。レトは別段何の反応も見せず、そのまま弓の構えを取り始める。
「ここ数日の間に、それまで野晒しだった国境にいつのまにやらバリアンの監視が入っています。今はまだそこまで厳重ではないようですが、この分ですと間もなく……血眼の末恐ろしい兵士の壁が出来上がる事でしょう」


