亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~

床や天井から頭だけ覗かせてきたり、急に真後ろから抱きついてきて有り得ない馬鹿力で羽交い締めしてきたり…とにかく、人を驚かせたり怒らせたりするのが極上の楽しみと変態宣言をする奴だ。
何をするにも何かしらのアクションを交えてくるのだから、被害を受ける側は堪ったものではない。積み重なるストレスがいつか爆発してしまいそうだが、それもノアの思う壺なのだと考えると…グッと、耐えるしかないのだ。



「……ノア、どうしたの?」

不意に現れて早々にドールにちょっかいを出したノアに目を向け、首を傾げながらレトは言った。

…途端、それまでドールに嘲笑を浮かべていたノアの態度が豹変する。
我が主であるレトの声や言葉は、ノアにとっては神のそれ以上に神聖で気高く、そしてとにかく愛おしいもの…らしい。
それ故に、声を掛けた直後にこちらにクルリと振り返ってきたノアの顔は…ご主人に呼ばれた子犬の様な、幸せの絶頂を噛みしめているかの様な輝く笑顔を浮かべていた。

それも毎度の事だが、そんなノアの異常な求愛っ振りにドールが白い目を向けるのも、同じく毎度の事だ。



そんな乾いた視線など相手にもせず、ノアは春風に乗った木の葉の様に軽やかな動きで宙を浮遊し……ぼんやりとしていたレトを、その長身で思い切り頭から抱き付いた。
普通の抱擁とは違うがんじがらめなしがみつき方のせいか、ノアの髪や腕が被さってレトの頭が見事に見えない。

「ああああああ私の麗しい陛下!お美しい陛下!慈母の如き陛下!陛下と御一緒ではない約五分余りの間…このノアの胸はそれはそれはもう寂しさで張り裂けそうで、危うく臓物を城中に撒き散らすところで御座いました!」

「掃除が大変そうだね。ノア、ちょっと息が苦しいよ」

長い緑の髪で覆われて見えないが、ノアの腕の中から淡々としたレトの返事がくぐもって聞こえてきた。
直後にノアは素早くレトをきつい抱擁から解き放ったが、今度は幸せそうにレトの頭を頬擦りし始める。

レトは、全く動じない。