亡國の孤城Ⅲ ~バリアン・紲の戦~


答えに詰まり、とりあえず勢いでそんな事を言ってみたドールだったが、冗談と笑って軽く流してくれるどころか…レトはそれはそれはもう悲しい表情を浮かべて大きく頷いた。

「………うん……寂しい…」

恥ずかしげも無くそんな台詞をサラリと呟くレトは、至って大真面目なのだろう。…その寂しそうに縋ってくる子犬の様な目は、決して偽りではない。
こちらを見つめてくる彼の純粋な瞳に、うっ…と若干たじろいたドール。…恥ずかしいのは、非常に苦手だ。
嘘偽りの無い真っ直ぐな彼からの好意に頬を染めたドールは、目を覚ませとばかりに赤くなった頬を思い切り両手で叩いた。
当の昔に砂漠の何処かで捨てたと思っていた自分の乙女な部分が、どうしようもなく恥ずかしくて仕方無い。
野郎共の中で戦いに明け暮れていたのだ…今更異性に対して特別な感情など抱く筈も無かったのに。どうしたことだ…。

この、綺麗すぎる天然な王様だけは、苦手だ。

…苦手?……いや…苦手とは違うのだけれど。


「……そ…そ、そうでしょうとも!………そうよ!…あたしがいないと…本当、すぐ弱気になるんだから!」

ツンとした態度をなんとか保ちつつアハハ、アハハハ…と強気に笑い、頬の熱と胸の高鳴りを紛らわすドール。
仮にも一つ上の年上なのだ。約一年間の経験の多さでお姉さんを気取っても問題無い、筈だ。



そんな独り必死なドールの心境など露程にも知らぬレトは、嬉しそうに彼女の言葉に同意して頷く。

「うん…まだこの城に全然人がいなかった頃から……ドールは僕を凄く助けてくれたよね…何処に行くにもついて来てくれて…一緒にいてくれたから………僕、全然寂しくなかった…」

「………あ、危なっかしいんだもの…見ていてハラハラするばかりだったし…それに…………………あたしは、“友達”だからね」



ドールの言う友達、という短い言葉に、レトは静かに目を細めた。
他人には理解出来ないが、レトにとって、友達という存在はとても大切なものだ。