「…皆が焦っているのも、大事な事だっていうのも、分かってるよ。……考えてるよ、僕も。考えているんだけど………僕は、難しい事は苦手だから……考えても何も出てこないんだー。………だから、今何か考えるのは……少しだけ、止めておくことにしたんだ」
「………それ、国王の貴方が言っていい台詞じゃないわよ…」
公にするにはあまりにも問題ありなレトの発言に、ドールは心底呆れた表情を見せる。
…確かに、王に君臨してから学ぶべき事が山ほどあるのだが、三年前までは文字の読み書きさえ出来なかったのだ。政治以外にも基本的な勉学をしなければならないレトは、大臣等と共に行う会議にたまについていけない時がある。
そんなレトに、難しい話は酷であるのかもしれないが…。
「…あのねぇ……分からないからって、考えるのを止めてしまうのはどうかと思うのだけれど?」
のんびりと構えるレトに、匙を投げるのは良くないとドールは眉をひそめる。
せっかくの整った綺麗な顔を不機嫌に歪ませて睨んでくる彼女に、レトは困った様な笑みを浮かべた。
「…そうだね。そのためにも、僕はもっと…勉強しないと。……早く難しい文字も書いたり…読めるようになって、大臣さん達の質問に答えられる様になって………もっと、王様らしくならないといけない…」
そう言いながら、レトは構えた弓から頭上の空をゆっくりと見上げた。
そこには、幼い頃に見飽きていた厚い雪雲の姿は無い。
適当に千切った綿の様な雲の隙間からは、薄い青空が見え隠れしている。澄んだ青の向こうには、何も無い。
「……今の僕には、今何をしないといけないのか……全然分からない。そういう時、どうすれば良いのかなって考えていたら………昔、父さんから聞いた話を思い出したんだ。……狩人の、話なんだけどね」
狩りの仕方は、人によって様々だ。
木の穴に隠れた鳥がいる。
木を揺らしても指笛を鳴らしてみても、鳥は出て来ない。
鳥が出て来るように仕向けるため、狩人は様々な策を練るのだが。


