流浪の旅に、目指すものは無い。



若者が抱く大志も持ち合わせていない。



昔はそんなものを持っていた気がするが、時の流れというものなのだろうか…道を切り開くための熱い何かは、今は灰を被ってどこかに埋もれてしまった。



灯台の様な道標を自分で捨ててしまってからは、何処に向かうも行き当たりばったりで。




足が向くままに歩き、立ち止まり。その、繰り返し。


たまたま見つけた荒廃した村の中。

あちこちに見えるボロボロの荒屋は、土壁から屋根に到るまで穴だらけだったが、その軌跡のどれもがまだ新しいものだった。



長居するつもりは無かった。

何となく気紛れで覗いてみた荒ら屋の一つ。




隙間の目立つ傾いた扉を軽く引いた途端、内側で何かが寄りかかっていたらしい。



…ドサリと、砂埃を巻き上げて目下に横たわったそれ。




まだ十にもなっていないだろう。
きっと数日前までは、可愛らしい小さな子供であっただろう………人間のシルエットを象った、丸焦げの焼死体が飛び込んできた。



焦げた臭いが鼻を突く。






思わず顔をしかめたのは、多分…その異臭や醜さに対する不快感故ではなくて。








大昔、幼い頃の自分が目にしてしまった…家族の亡骸の面影と、重なって見えたからかもしれない。





戦火は嫌いだ。



血も、刃も、死体も…争いから生まれるものは全て嫌いだ。






憎しみの矛先が、自分と同じただの人間だと気付いてから……他人への見方や、自分の存在価値みたいなものが変わった気がする。




















何処に行っても暑い砂の上。



いつだったか。

老人と少女が、今にも魔獣に襲われそうになっている場面に出くわした。






少し前の自分だったら、恐らく…そのまま立ち去っていただろう。




良い人になるつもりはない。



しかし、俺の足は動いていた。






「変わるもんだな、俺も」