壊れたスーツケースを掴み、医療器具をくるんだ細長い荷物を背負うと、ユアンは出入り口である天井の穴に向かった。
その後を、ライが小走りで追い掛ける。
「先生、柱の蜃気楼って…一体何なんですか…?」
「だからライ君、僕を先生と呼ぶのは止めて下さいってばー。こそばゆい。…さぁてね、僕はただのしがない医者なので、そういった不可思議な現象に関してはお手上げー。あと興味も無いです。……ただ一つだけ言えるのは………嫌な予感がするって事です」
「………」
ライの視線を背中に感じながら、ユアンは天井の穴から垂れ下がっているロープを手繰り寄せる。足元の木箱の上に上がり、夜の闇が見える外に向かって耳を澄ませた。
聞こえてくるのは流れる砂の音色のみ。周囲に生き物の気配は無い様だ。
「……そうそう、言いそびれましたけど…おかしいのは砂漠ばかりではありませんからね」
「……え…」
ふと思い出した様にユアンは口を開き、背後のライに振り返ってきた。薄暗がりの中で、薄紅色の隻眼が笑っている。
「………君達の事を嗅ぎ回っている…妙な不審人物がいるみたいです。バリアン国家のスパイなのか…どういう輩なのかは知りませんが……用心していた方がいいですよ。………あの黒いお嬢ちゃんも含めてね」
そう言って笑う隻眼に、眉をひそめたライの姿が映った。何か言いたげに口を開こうとするが、ライの唇は何も紡ぐ気配が無い。
「非情な事を言うようですがね……君達三槍は、誰よりも人を疑わなければならない筈です。そうでなければ生きていけないでしょう?…黒いお嬢ちゃん……サナ君の様な存在は、君達にとってその疑うべき存在な筈です」
「………そう、です。……そう…ですけれど…サナは………そんな…スパイとかじゃ…ないと…言うか…」
「…お人好しなんですね。人は見掛けで、そして人柄でさえも全てを判断してはいけませんよ。君は疑うという事がどれだけ大事なのか、分かっていない。疑いなさいな、レヴィ君の様に。……まぁ、彼ほどの疑心暗鬼になるのはさすがに無理かなー」
その後を、ライが小走りで追い掛ける。
「先生、柱の蜃気楼って…一体何なんですか…?」
「だからライ君、僕を先生と呼ぶのは止めて下さいってばー。こそばゆい。…さぁてね、僕はただのしがない医者なので、そういった不可思議な現象に関してはお手上げー。あと興味も無いです。……ただ一つだけ言えるのは………嫌な予感がするって事です」
「………」
ライの視線を背中に感じながら、ユアンは天井の穴から垂れ下がっているロープを手繰り寄せる。足元の木箱の上に上がり、夜の闇が見える外に向かって耳を澄ませた。
聞こえてくるのは流れる砂の音色のみ。周囲に生き物の気配は無い様だ。
「……そうそう、言いそびれましたけど…おかしいのは砂漠ばかりではありませんからね」
「……え…」
ふと思い出した様にユアンは口を開き、背後のライに振り返ってきた。薄暗がりの中で、薄紅色の隻眼が笑っている。
「………君達の事を嗅ぎ回っている…妙な不審人物がいるみたいです。バリアン国家のスパイなのか…どういう輩なのかは知りませんが……用心していた方がいいですよ。………あの黒いお嬢ちゃんも含めてね」
そう言って笑う隻眼に、眉をひそめたライの姿が映った。何か言いたげに口を開こうとするが、ライの唇は何も紡ぐ気配が無い。
「非情な事を言うようですがね……君達三槍は、誰よりも人を疑わなければならない筈です。そうでなければ生きていけないでしょう?…黒いお嬢ちゃん……サナ君の様な存在は、君達にとってその疑うべき存在な筈です」
「………そう、です。……そう…ですけれど…サナは………そんな…スパイとかじゃ…ないと…言うか…」
「…お人好しなんですね。人は見掛けで、そして人柄でさえも全てを判断してはいけませんよ。君は疑うという事がどれだけ大事なのか、分かっていない。疑いなさいな、レヴィ君の様に。……まぁ、彼ほどの疑心暗鬼になるのはさすがに無理かなー」


