「精神的打撃によるものでしたら、心のケアしか手立てはありません。魔術によるものだとすれば、これはもう僕の許容範囲外ですのでお手上げ。さようならってところです。……と言うか、もし魔術によるものだとしたら彼女は本当に何者なんですか。魔法の口封じをされるだなんて、相当な重要人物か………もしくは単なる不幸な娘か」
…確かに、魔術によるものだとすればそれはそれで問題だ。
記憶をどうこう出来る高度な術など、魔術をかじったことのある、という程度の者には到底扱う事など出来ない。
魔の者の様な…彼等の様な並外れた魔力の持ち主で無い限り扱えないのだが…。
(でもそうなると……やっぱり、バリアン国家による仕業の可能性が…高い…)
このバリアンには、昔ほど多くは無いが…魔の者が至る所にいる。
王族という特定の主を持たない自由気ままな魔の者達だが…バリアン王の命には従うため、はっきり言って彼等も人畜無害ではない。
…もし、サナが本当に魔の者達によって記憶を操られたのだとしたら………彼女は何等かの情報を握る、間違い無く重要な人間…もしくはレヴィの予想通り…自分達三槍に差し向けられた敵の一人ということになる。
……想像ばかりで、真意は未だ一向に分からないままだが。
…出来れば、そうであってほしくないとライは思う。彼女を思いがけず拾ってしまってからまだ数日しか経っていないけれど…。
(………敵…には、見えないなぁ…)
そう思いながら不安げな表情でサナを見やれば、いつの間にかこちらを凝視していたらしい…彼女の光を透さない漆黒の瞳と、視線が重なった。
大きくつぶらな瞳。
見る度に、あの底無しの目に惹きつけられる…何とも不思議な少女だ。こんな感覚、最初だけだと思っていたのに…それは違った。
数を増すほどに、サナの深い漆黒の虜になっていくのだ。
まるで、それこそ魔法の様に。


