「ああ?…いちいちそんな事で呼ぶんじゃねぇぞガキ!埋めるなり焼くなりさっさと処分しちまいな!」

「処分って…」

咄嗟に塞いでいた耳から手を下ろし、途方に暮れた様に、ライは足元で未だに藻掻き続ける赤い猫に視線を下ろした。
…そして再び交差する小さな潤んだ瞳に…ライは小さく呻く。


元来、ライという青年は何でも捨てられない、放っておけない、少々厄介な性格の持ち主である。
……以前も…否、毎回こんな風にライには人なり動物なり物なりと、何かしら眼中から外せないものと遭遇してしまうのだ。

そして当然ながら、世話焼きの性分が疼いて仕方なくなってしまうから、もう後には退けなくなってしまうのだ。
…必然的に今回も例外ではなく、目下のティーラを見詰めるライの脳裏や胸中には…母性本能とも庇護欲とも言える妙な疼きが既に沸き起こっていた。


…このティーラ、よく見ればまだ小さいではないか。
ああ、可哀相に…。
自分が最後にオヤジさんの店に来たのが二日前。その時はいなかった筈だから…最大でも二日間飲まず食わず。

ああ、可哀相に…可哀相に…こんなに弱って…こんなにまだ小さいのに処分だなんて…。

処分…。








「―――断固反対!」

「うぉっ!?…何だライ!急に目ん玉かっ開いてどうした!?」

…泣いているのかは分からないが、何故か両手で顔を覆って肩を震わせているライを、オヤジは怪訝な表情で見詰めた。
そういえば以前もあんな彼の姿を見たことがある気がする。

―――あれはそう…古びた衣服の処分を言い渡した途端、「―――勿体ない!」と一言叫んだ後、裁縫箱を手に黙々と縫って寝袋を完成させてしまった時に…似ている。

ライの拾い癖がまた始まった…と、オヤジは溜め息を漏らした。



「…あの、僕が責任持って育てますから…引き取っても…」

「……面倒臭い奴だなお前、改めて女に生まれ変わって子宝に恵まれたらどうだ?………勝手にしろ、要はその赤猫がいなくなりゃいいんだ」