それは、古い古い巨大な地図だ。
いつ描かれたのか分からない、恐らくこの城の完成と共に生まれた頃だと思われているが、ほとんどは謎だ。

三大国、三大陸を細かな部分まで描いた巨大な地図。きっと大昔の王達は、戦いの最中、この地図を見下ろして策を練っていたに違いない。

床の古い地図は、現在のそれとはだいぶ異なっている。時の経過は地形を大きく変えているらしい。…けれども、いくら時の経過による変化があったのだとしても、これだけは比較の仕様が無い…というものが、その地図にはっきりと描かれている。

輪を描くように並んだ三大陸。その輪の中が描かれている部分を、ウルガはじっと見下ろした。
三大陸の中央部分。その場所こそが、実は今回の平和協定の締結を行う場としてフェンネル王が上げている候補の一つだ。

新しい地図では、そこは何も無い空白でしかない。
このウルガが見下ろす古い大理石の地図では、その場所の名がはっきりと記されているのだ。


今の地図には無い、しかし古より存在すると言われている…空白の場所。そこがどんな場所で、何があるのか…日々、怪鳥に跨って遥か彼方の空を飛び回るウルガも、そんな場所も光景も見たことが無い。

ウルガの指先が、空白の場所にうっすらと浮かぶ名前をなぞる。
難解な古代文字だが、それは簡単な単語で収まっていた。


普段は寡黙で閉じられている乾いた唇が、古き名前をそっと綴った。
昼間とは大違いのひんやりとした夜気に落とされたそれは、誰の耳に届くわけでもなく静かに消え果てた。










「―――…“ウミ”…」





















何処にも無いのに存在する。古代の地図が記す謎と矛盾を抱えたその場所に、ウルガは半ば無意識で視線を向けた。

壁に空いた風穴から見えるのは、世を埋め尽くす漆黒色のベールのみ。



しかし、その先に空白の場所はあるのだと先人の遺産が語っている。





視線の先の“ウミ”とやらは、この世界の中心なのだ。