異国の内部状況を探るなら、どうしても彼等の様な情報屋に頼らざる得ないのだ。


この情報売買の場を、これまでにも何度も目の当たりにしてきてはいるが……どの質問にも一度も詰まる事も無くサラサラと答えていくオヤジの手腕には、毎度感心するばかりだ。

売手も買手も忙しそうだ…と苦笑を浮かべながら、最後の木箱を持ち上げた途端…不意に、ライは動きを止めた。


持ち上げた空き箱の下に注がれる視線の先には……半分砂に減り込んだ状態の、何やら小さく暴れる影が一つ。



一瞬、物影に潜んでいた毒蛇か…と恐る恐る警戒しながら目を凝らして見れば…。






(………“ティーラ”だ…)


ホッと安堵の息を漏らすライの目下には、砂漠のと同色の体毛を持つ、小さな獣の姿があった。

“ティーラ”と呼ばれるそれは、一言で簡単に説明するならば、尾の長い真っ赤な猫である。
大きさは成獣でも二、三十センチ程。雑食で、街ではよくゴミを漁っている姿を見掛ける。
砂漠と同色の赤い身体は、恐らく敵から身を守るための擬態色だ。
常に長い尾をぴんと真っ直ぐ立てているのは、外敵の気配を探っているためだという。

本来は砂漠に棲息する獣だが、いつからか人気のある街に住み着くようになった。おかげで何処の住居の床下や調理場にも、鼠捕りならぬティーラ捕りが設置されている。

加えてティーラは食用肉としても身近な存在だ。生け捕りにした後、その日のまな板に並ぶか、肉屋で吊されるかである。



その、この国では珍しくも何ともないティーラが、ティーラ捕りの金具に尾を挟まれた状態で、ジタバタと暴れているではないか。
半ば諦めた様な、元気の無い鳴き声でニャーニャーと鳴きながら、大して凶器にもならない小さな爪で砂地を引っ掻いている。

赤い身体に映えるつぶらな真っ黒の瞳が、縋る様にライを見上げていた。


「………オヤジさん、ティーラ捕りにティーラが捕まっているけど…」

見付けてしまったが、さてどうしよう…と困惑しながら店内にいるオヤジに叫んだが、今は商売の最中である。
予想はしていたが、案の定、適当な答えを添えて怒鳴られた。