ご主人にとって自虐ネタの冗談は武器だった。
空気が悪い時は自分を下げる発言をしておけば、とりあえず笑いに繋がる簡単な技だった。
けれど、
『主人ちゃんは性格悪くないよ』みたいに、5番目グループから真面目にフォローをされたんだ。
そうではなく、ウケ狙いの卑下ギャグのつもりだったので、ご主人が笑って流そうとしたら、
『Bちゃんのが性格悪いらしいよ!』と、まさかの被せ技を頂く始末で、本当にガッカリした。
こういう【噂の本人が居ない場所での無意味で不穏な会話のやりとり】が嫌だったのに、お笑い芸人さんじゃないご主人には、
どんな人をも笑わせるスキルがないようだ。
だから、『そうそうBちゃんって――』と、再びシリアスな噂話が始まってしまっていた。
これは俺の持論なんだけど(……持論程押し付けがましい物言いもないんだけど、片手間でいいから聞いて欲しい)、
【悪口って自分が言わなくても聞いたら同罪】だと思うんだ。
【自分は言ってなくても、自分は相槌さえ打たなくても、その場で聞いたらダメ】だと思うんだ。
そんな持論により、
『Bちゃんオモロイよ! 私もう行くね』みたいに、悪口の空間から曖昧に切り抜けたご主人でした。
五十メートル走はクラスで下から六番目な癖に、逃げ足だけは速いんだ。
つくづくヘタレな女の現実逃避は駿足で、きっと学校で一番の記録者だと思う。



