『優子さん、君とこうして一緒にいられるなんて夢の様だ』『わたしも…あなたの様な男性にめぐり会えて幸せです…。そんなに強く抱きしめないで…壊れちゃう』『ダメだよ。この手を離したら君は何処かに行ってしまいそうで怖い』『ど、どこにも行かないから…い、痛い…ねぇ、離して…離せって言ってんだろ!コラ!』自分の声で目が醒めた。ここは何処だろう。腕ごと身体をロープで縛られて横倒しになっている。夢の中でイケメンに抱きしめられていたのは身体をきつくロープで縛られていたせいらしい。『アホくさ…』呟いてまわりを見るとマンションの1室らしき部屋らしい。どうしてこんな所にいるのか思い出してみた。そうだ…強司の戻りが遅いから暴力団の事務所の下見に行ってウロウロしていたら、背後から口を押さえられてその後の記憶はない。薬か何かを嗅がされたのかもしれない。ちっ、ドジったな…。これも強司が遅いから悪いんだ、あのばか…。ここが何処で誰に軟禁されているか確認しなくてはと思い、後ろ手で部屋の扉を開けると居間になっていて男が一人椅子に座って雑誌をめくっていた。『おはようございます』男は屈託のない笑顔をみせて優子に話しかけてきた。『ここは何処?アンタ誰?トイレ何処?』男は眉間に指を当てながら『お答えします。ここは誰もが恐れる悪魔の巣窟、私は地獄の番人を務める手下その1、トイレは廊下の左手にあります。OK?』優子の顔があっという間に赤くなり『何言ってんだ?お前。人が真剣に訊いているのに。なんだ、その態度は』男は『う~ん、答えられる範囲で真剣に答えたのですが…気にさわったらすみません。しかし、あなたのそういう態度が事態を悪化させるという事もわかって頂きたい』ふざけて見えるが、相手を諭す様な話し方はヤクザというよりは何かの先生という雰囲気がある。『どうでもいいけどこのロープを解いてくれない?女の子にこんな事して恥ずかしくないの?』男は『暴れないと約束していただけるなら解きましょう。ただし、約束を違えた場合は手荒な事をせざるを得ませんが』と、手を組みながら優子をジッと見据えている。『わかったよ。約束するから解いてくれ。あと、連れが心配してるから電話をしたい』男は『連れというのは鬼塚ブラザーズの事ですね?彼らには私のボスから連絡がいく筈です。心配は無用ですよ』