「うちって、ヴェールヴェールか」


水鳥の実家はペンションを経営している。ヴェールヴェールはその名前だ。


「違う違う。職場の方。今日ブーケトスで転んだ娘よ」


 水鳥は今日の式中の出来事を簡単に話した。

それを聞いた伊呂里は始めにみた、裸足で歩く姿を思い出していた。


「ああ、それで靴のヒールが折れてたのか」


「すごい音色に似てるでしょ、気になってたのよ。すごく酔っぱらっていたみたいだったし」


接着剤でなおしただけのヒールでは、無理はできないとわかっていたはずなのに、と水鳥は心配そうに顔を覗き込んだ。


「部屋も空いているから、ひとまず今夜はこの娘うちで預かるわ」


「助かった。よろしくな」


伊呂里は胸をなでおろした。


「元はといえはお前が原因だろうが」


「あ、うん、明日は俺たちも様子見にいくから」


「おい、俺もかよ」


「連帯責任」


 抗議する狼士を指差して黙らせると、眠り姫のバックや靴を持って男たちに命令した。


「ほら、早く乗せる」


号令一過、男たちは慎重に眠り姫を車に移動した。