「…で、見ず知らずの女を連れてきたわけか」



高久 狼士(たかく ろうし)は、同居人の伊呂里に呆れた声で呟いた。


那須御用邸近くの別荘地、その一角にたつログハウスで男二人暮らしている。


今その部屋のソファーには、先ほど伊呂里が拾ってきた、行き倒れの女が寝かされている。


「仕方ないだろ、あそこで見たときは、本当に音色だと思ったんだから」


「それにしたって車に乗せる時点で気付くだろう?」


拾った女はこっちの気も知らないで、すやすやと、寝息をたてている。


「それは気づいたけど、だからといって、そのまま寝かしておくわけにはいかないだろう」



伊呂里はソファーの女と狼士を交互に見て、口をとがらせた。


「おれなら、ほっとくね」


「いや、嘘だ」伊呂里は間髪をおかず否定する。


「狼士が女の子にそんなこと出来るわけがない」


 その言葉に反論はせずに、狼士は携帯を取り出した。


「どこに電話するんだ」


「理絵のところだよ。部屋の空きがあったらこの女を預かってもらう」


 携帯を耳にあてたまま狼士が答えた。