「帰りたくない……」
「仕事は???」
「聞かないで……」



ちょっと落ち込むような声を出して私の耳元辺りに唇を当てる。

「ん………」

くすぐったいような、気持ちが良いような。

不思議な気持ちになった。

「莉子…」
「ん?」
「俺もう帰らなきゃ…」
「うん……」

帰らなきゃと言う割には抱きしめる腕を強める。
強く、でも優しく………


「せんせ………?」
「分かってる」
「……ふぐッ!?」


さっきよりもまだ強い力で私を抱きすくめる。

小さい私は抱きしめられると胸の辺りにしか届かない。
だからかな。
涼ちゃんの鼓動が良く聞こえる。

「ぐるじ……」
「我慢しろよ」

我慢!?
苦しいのに………!!!

「ぜんぜぃいぃ!!!」


本当に本当に苦しい!!

「……うるせー…」

涼ちゃんの声がして。
大きな圧迫から解放されたかと思えば。

熱い唇が私の唇と重なっていた。

「ん………!?」

私のおでこに涼ちゃんの柔らかい髪が触れる。

唇が離れた時は私の息は上がっていた。

「帰りたくないけど…帰る。」

そう言った涼ちゃんに私はコクコクと頷く事しか出来なかった。

「じゃな」

私の髪をぐしゃぐしゃにして車に向かう涼ちゃん。
仕事あるのに。忙しいのに。
会いに来てくれたんだ…