僕たちの時間(とき)

「――なるほど、ね……」

 呟くように、満月は唸った。

 そこに住んでいた3年の間、汚れきった大気が呼吸器官の弱い水月を蝕んでいた、それは充分に考えられる。

 しかし……、


(“現在”までの期間が、長すぎる……)


 ガン細胞にも、おたふく風邪などに見られるような“潜伏期”というものが、存在するのだろうか…?

 ――いや、ウイルス性の病気ではないのだ、まさかそんなもの、あるはずがないだろう。

 …ということは、だ。

(――ていう、ことは……!?)

 満月の脳裏に一瞬過(よぎ)った、――“最悪”の考え。

(まさか、そんなことっ……!!)

 満月は一瞬でも浮かんだそれを消そうと、母親に向かい、極めて明るい調子で尋ねる。

「でもガンなんて言ったって、初期段階なんでしょう? 大体みぃが倒れたのなんて、小さい頃ならともかく、ここ最近では初めてのことだったじゃない! いくら不治の病だとはいえ、初期なら治る可能性は充分高いんだから! そこまで深刻に考え込む必要なんて、無いわよね! だから大丈夫! 治るんでしょうっ?」

「満月……」

 彼女の言葉をただじっと聞いていた母は、ぐっと唇を噛みしめ、…そしてゆっくりと口を開いた。


「だめなのよ……」


(え……?)


 心臓が、ドクンと音を立てて跳ね上がる。

(まさか……!)

 打ち消しようのない不安が、満月の心を覆ってゆく。

「水月が倒れたのは、この間が初めてじゃないらしいの。以前からも、学校で度々あったらしくて……」

(言わないで……お願い……!)

「医者(せんせい)が仰ることには、水月のタイプの肺ガンは、もう一方のタイプより発見しやすいものなんですって。だからこのタイプはたいてい初期段階のうちに早期発見されて、ガン細胞を取り除いて完治させることが充分に可能なんだそうよ。

 ――でも水月は…あの子は……! 私達に心配かけまいと、ここまで何も言わずにきてしまったのよ!

 自覚症状が少なかったせいもあったからでしょうけど、こんなに長い間、あの子は知られないように隠し通してきてしまったの! だからそのせいで、発見が遅れて……!」

(言わないで……!!)