僕たちの時間(とき)

「軽音部だよ、軽音部!!」

「『ケイオンブ』…?」

 その発音が『軽音部』と脳内で漢字変換されるまでに、思いのほか時間を要してしまった。

「――って、そんなのウチの学校にあったっけ……?」

「だから、俺たちが作るんだよ軽音部を!!」

「はあ? 『作る』って……」

「マエから再三、ミツル通して申請は出してたんだよな。せっかくの“生徒会長”なんてゆーベンリな権力、こういう時に使わねーでいつ使う!」

「そんなこと自信満々に言われても……てゆーか、そもそもそういう用途で使っちゃいけないんじゃないのソレ……?」

 ――間違っても“生徒会長”という生徒の代表者である権力は、葉山にベンリに使われるためだけに在るものでは、決して無い。

「でもなー、生徒指導主任が、よりにもよってあのとっつぁんだからさー……」

 しかし、喜びでノリノリにノリまくっている今のこの状態の葉山のこと。

 横から冷静にツッコミを入れる僕の言葉なんて、聞いてさえいない。

 とはいえ、聞いてくれたところで、『そんな細けーこと気にすんな!』と笑って流されるのが〈関の山〉、なんだろうが。

「あんの頑固ジジイ、なっかなかウンと言ってくんなくてなー……それだけが、どーにも乗り越えらんねえ障壁でなー……」

 でも今日ようやく報われたゼ…!! と、まるで感きわまって涙まで流しそうな勢いで喜ぶ葉山を唖然と眺めやりつつ。

 …そりゃー、どう良心的に考えたところで、毎回毎回あそこまで抵抗しまくる生徒が加わっているんじゃあ、とてもじゃないけど先生だって新部なんぞ立ち上げる許可なんて出さないだろうさ。

 ――などと、ヤツに軽く白い目をくれてやりながら、シミジミと思う。

 その先生を説得した、なんていう離れ技をやってのけてしまったとは。

 それこそ並々ならぬ多大なご苦労があったんだろうなあ…と、思わず「お疲れ様」と山崎くんを振り返ってしまった。