僕たちの時間(とき)

『オマエは決め付けんな』――と、葉山は言った。


『サトシの気持ちは、誰も解ってやることは出来ないけれど……それでも、親しい人間を亡くした気持ちなら、俺も、知ってる』

 語る声音に何の感情の色も載せず、あくまでも静かに、それを告げる。

『兄貴の周りに集まってんのは、ホントにロックしか知らねーような人間ばっかだったしな。兄貴の後にくっついてりゃあ、イヤでも見ちまうんだよ。――挫折した人間の背中を、さ……』

 ロックやってる人間なんて基本的に不器用でしかないんだ、と……語るその口調に、一瞬だけ苦痛の色を覗かせる。

『不器用にしか生きられない生き方を自身の音楽に曝け出し続けるか、それとも挫折して音楽を捨てるか……筋金入りのロック野郎は、その二者択一でしか人生を選べねえんだよ。不器用だからな。とはいえ、たとえ音楽を選んだとしても成功するとは限らねえ。でも、どうしても捨てられない。ライブハウスに集まってんのは、そういう捨てられない“夢”に縋り付いてるヤツばっかりだ。だけど、その中にだって、いつかはどこかで自分に見切りを付けるヤツだって出てくる。そして“挫折”する。音楽を捨てる。――けど、その“不器用”さのあまりに、音楽どころか、命まで捨てちまうヤツだって……居るんだよ中には……』

 ふと葉山は目を伏せ、咄嗟に息を呑んだ僕から、視線を逸らした。

 おもむろに1つ、息を吐く。

『だからオマエは真っ当に生きろ。何があっても生き続けろトシヒコ。ちゃんと自分の意志で、生きてみせろ』

 それを、目を開け、その揺るぎ無く真っ直ぐな視線で僕を見つめてから、言った。

『「ピアノしか無い」ってことを嘆いてんのは、確かにオマエの“個性”だ。――でも、だからといって、それだけだと決め付けんな。このトシで自分を枠に嵌めようとすんな。俺たちは、まだ中坊だろうが。これから幾らでも変われるんだ、好きなように好きなだけ自分を変えていけるんだよ。気持ち一つでもありゃーな』

 そしてヤツはニッとした笑みを浮かべ…なのに、どことなく淋しそうにも見える表情で、僕の頭をクシャッと撫でた。


『だから、俺たちは勝ち続けようぜ! この先ずっと音楽を続けて……何としても、勝って自分で選んだ道を生き続けるんだ! 必ずな!』