僕たちの時間(とき)





『オレを生かしてくれたのは、尾崎 豊の唄だったんだ』――と、渡辺くんが語った。


『妹が亡くなった時、あまりにも何もしてやれなかった自分に対する後悔で、どうしていいか分からないでいた時に……この唄を聴いたんだ』

 淡々と…その辛い過去を、僕に向かって話してくれた。

『その頃は、さすがに悠長に音楽なんて楽しんでられる心境じゃなかった。でも、たまたま耳に入ってきたそのタイトルに惹かれたんだ。「僕が僕であるために」。だって、その時のオレは本当に、自分がこれまでの自分で居られるための方法が分からなくなってたから。まるで藁にでも縋るような気持ちで、その歌を聴いて……そして彼の唄に勇気を貰った。妹が居ない世界で生きていく勇気を。教えてもらったんだ、オレがオレで居るための方法を』

 だから…と、どことなく悲しそうな瞳で僕を見つめて、彼は、続ける。

『それ以来、落ち込んだりとか…何か挫けそうなことがあるたびに、オレはこの歌を唄うんだ。誰に聴かせるためでもなく、ただ自分のためだけに。何度も何度も、気の済むまで繰り返し、叫んで叫んで、唄い続けて……そうやって再び立ち上がれるパワーを貰うんだ。この唄は、それくらいオレにとって欠かせない歌』

 だからこそ僕は、唄わなきゃ生きていけないんだよ、と……その瞳に力を込めて、そして言った。


『あの時、オレは決めたんだ。この先どんな風が吹いてきても、それでもオレは唄い続けていよう、って―――』