僕たちの時間(とき)

「嬉しいなあっ、ちょうど病室が淋しくなってきたところだったの。やっぱりコレ、窓辺に置くべきかなあ? それとも、吊るしちゃおうかなっ?」

 袋に入れてもらった花籠を大事そうに抱えたご満悦な様子の彼女を見やり、このままだと繋いでるこの手を放り出してスキップしながら何処にでも行きかねないな…と、苦笑して僕は思わず繋いだ左手に力を込めた。

「何をそんなに浮かれてるんだか。そこまで花が欲しかったのかオマエは?」

 あきれたような色を含んだその言葉で、「それもあるんだけど…」と、笑顔のままで振り返った彼女が応える。

「でも、そんなことよりも、聡くんが私のために花を選んでプレゼントしてくれたってことが、何よりも一番、嬉しかったんだもんっ!」

「…………」

 知らず知らずのうちに、頬が熱を帯びてくるのがわかった。

(うわあ…! 何でコイツ、こんなに嬉しがらせてくれるようなコト、そんなにアッサリと言ってくれちゃうんだろうッ……!)

 すぐさまその場で“回れ右”して花屋に引き返し、今すぐあの白い花を両手一杯の花束で買ってきてプレゼントしてやりたい衝動にかられる。

 ――イヤだから、そこまでの大金は持っていないんだってば……。

 きゅ…と、そこで繋いでいる左手が強く握り返された感触を感じ、フと僕は我に返った。

 どうかしたのかと水月を見下ろした訝(いぶか)しげな視線が、既に僕を見上げていた、真っ直ぐな彼女の瞳に受け止められる。

 僕たちは、歩みを止めて向き合った。

 それは彼女のクセ。――何事か僕に言いたいことがある時の。

 彼女がこうして僕の手を握ってくるのは、僕にそれを気付かせるための、そのサイン。

 気付いて振り向いた僕の視線を捉えて真っ直ぐに見つめ返すのは、話し出そうとする彼女の意思の表れ。

 それが解っているから、「何?」と、僕は穏やかに問い返す。

 僕がこうやって“話を聞こう”という態勢になってはじめて、ようやく準備が整うのだ。

 それほどまでにして伝えたい大切な話を、真剣に切り出そうとする時の、彼女のクセ。