僕たちの時間(とき)

「――そうよ……その通りよッ……!」

 流れる涙を拭おうともせず、遥はキッと僕らを見据え、ほとんど叫ぶように言い放った。

「私にはそうするしかできなかったもの! キレイな愛し方なんて、できないもの!!」

「遥……」

「好きになった人にはもう、既に“お似合いの彼女”がいて……でもあきらめ切れなくて……そんな時、女はどうすればいいの……? ――悪い女になって近付くしか、ないじゃないの……!!」

 そのセリフに、僕は驚いて目を見はる。

「遥!? おまえ水月のこと、知って……!?」

「ええ、知ってたわよ!! サトシのことだもの、知らないハズ無い!! 彼女がいることだけじゃないわ!! 彼女の名前も、顔も、学校も、…そこに居るミツルの彼女の妹だってことも!! サトシのことと同じくらい、全部知ってるわよ!! ――2人が……どんなにお互いを想い合っているかってことも……!!」

「な…んで……」

「あなたの前では“BEST”な心(ハート)で。――そんなの嘘よ! あなたに近付いた私は“BAD”な女、そのものだった! あの日、酔ったサトシを見つけた時……サトシがお酒飲まない人だって、私、知ってたから……きっと何か深く傷つくことでもあったのかなって、そう思って……でも同時に考えてた。もしかしたら、彼女と何かあったのかもしれないって……! 何の確信もなかったけど、でもその直感に私は賭けてみたの。確かにそれは間違いじゃなかった。だって、サトシは私を拒まなかったもの」

 ズキッ…! ――胸が、疼いた。

 そう、遥の言う通りだ。

 あの時、僕は彼女を受け入れた。それは事実だ。

「チャンスだって、そう思った! 私はサトシの傷ついた心を利用したの! 傷ついた男をなぐさめる優しい女を演じてまで、私はサトシの心が欲しかった! こんな私の心が、いつでも“BEST”でなんか、いられるはずないのに……! でもあなたに…そして自分に、いつも言い聞かせて……でないと、あなたが離れていってしまうって、いつもいつも怯えててッ……! こんな私は、あなたの思っているような女じゃない……そんな素直な恋愛ができる女じゃないの! ――ただの、悪女よッ……!!」

「遥……」