僕たちの時間(とき)

「どうして、ここに……」

「――とんだ“親友”よね、あなたって」

「え…?」

 何のことだかわからずに首をかしげる僕だったが……どうやらその言葉は、僕に向けられたものではなかった。

「たいした演出ね! 私のこと騙してここまで呼んで、ご丁寧にこんなブ厚い防音扉の隙間まで開けて、わざわざ私に立ち聞きさせるように仕向けるなんて……! ずいぶんと凝った真似してくれるじゃないの!」

「まさか……」

 振り返る僕を真っ直ぐに見返し、光流は悠然とした態度を崩さずに、言ってのけた。

「ああ、俺が呼んだ」

「なっ……!?」

「最初からあなたは“全部”知ってたのね!? 知っていた上で私をハメたってワケね!? ――あなたの計画通りじゃない! 私……確かにサトシの本音、聞いちゃったんだから……!!」

「別に計画なんて立てちゃいないさ。俺は聡と納得いくまで話をしたかった、ただそれだけだ。聡があんたを選ぶ確率は五分五分。あんたに話を聞かせる確率も五分五分。ハナからうまくいくなんて思っちゃいなかった。――まぁ、“賭け”のようなモン…だろーな……」

「――何が言いたいの……?」

「俺はその賭けに勝った。…てことは、俺とあんた、運命の女神サマが“どっち向いて”微笑んでるか…、一目瞭然だろ?」

「な…んでッ……!?」

「あんたの神サマの呼び込み方、どうやら間違っていたらしいな」
「………ッ!!」
 唇を噛み、遥は黙り込んだ。

 僕の与かり知らぬ所から突然降って湧いたこの出来事に、僕はかけるべき言葉もわからず、ただ為す術も無く立ち尽くすばかりで。

 遥の瞳からはとめどなく涙があふれ、その紅潮した頬を濡らしてゆく。