本の姫君と童話の王子様。

グラグラする。

「……さん、……きさん、伊吹さん」

声が聞こえる。

誰かが僕の苗字を呼んでいる。

ゆっくりと目を開けて周囲を見回すと、電車の中で、隣には見知らぬ女の子。

まだ寝ぼけてぼんやりとした頭で女の子を見やる。

「えっと……」

「おはようございます、伊吹さん。 次の駅が清峰高校の最寄り駅らしいですよ」

柔らかに微笑む少女、もとい浅井さん。

ああ、電車の中で寝ちゃったのか。僕は。

麻井さんが居なければ見事に乗り過ごしていただろう。

「ありがとうございます」

「いえいえ。 私も伊吹さんに助けていただきましたから」

そう言って顔の前で手を振って謙遜する彼女。

ふと、僕はこんな風に浅井さんと一緒に通学できれば良いなと思った。

その願いを叶えるには2人ともが合格していることが最低条件なのだけれど。