本の姫君と童話の王子様。

「受かっているといいですね」

「はい」

最初の会話の後、当たり障りのない短い会話を交わしてからは2人とも沈黙したままだった。

話題が、尽きた。

出会って十数分。

しかももう1度会えるか分からない相手だと当然だと思う。

それに、今向かっているのは合格発表。

緊張して、自分のことで精一杯なんだろう。

僕は隣で流れていく景色を見つめている麻井さんを見やり、

彼女と同じように電車の窓の外を眺めた。

出会った時から思っていたことだけど、麻井さんはどことなく言葉遣いが古い。

でもそれがおかしいと言うわけではなくて。

むしろ、清楚な感じの長い黒髪や柔らかな佇まいと相まって古き良き大和撫子と言った感じ。

千鳥格子の着物を着て、よく手入れされた日本家屋の縁側に佇んでいると絵になりそうだと思った。

そんなことを考えながらぼーっとしていたら、電車の振動と音が意外と心地よくて、まぶたが重くなって……。