本の姫君と童話の王子様。

カタタン、カタタンと電車は規則正しい振動を僕らに伝える。

「あの、麻井さんはなんで駅員さんに尋ねなかったんですか?」

なんとか2人分の空いた席を見つけて座った後に僕は麻井さん──駅で声をかけてきた女の子だ──に聞いてみた。

「多くの方が駅員さんに質問していらっしゃいましたので」

どうやら麻井さんは駅員の邪魔にならないようにと思って近場の学生服を着た人──僕だ──に尋ねることにしたらしい。

「もう1つ、質問しても…いいですか?」

「はい、どうぞ。 私に答えられることならお答え致します」

麻井さんの返事は言葉だけなら事務的な感じだったけれど、

おっとりとした柔らかな口調と聴いているとどこか安心する声で堅い感じはしなかった。

むしろ、緊張しておろおろしているようだった。

「なんで、僕に声を掛けたんですか? 他にも大勢の人が居たのに」

手を顎に当て、んーと少し考えてから

「なぜでしょうか……」

と返された。

しばらくして

「なにか、確信のようなものがあったんだと…思います。 伊吹さんなら、答えてくださるという確信が」

ゆっくりと内容を整理しながら麻井さんは話してくれた。

類は友を呼ぶ。

僕は小さいことからお人よしだと言われていた。

もしかしたら麻井さんも同じなのかもしれない。