先程まで霧がかかって病院は黒い影となっていたが、今は完全にその姿を見ることが出来た。

壁は表面の塗装が剥げていたり、植物の長いツルが病院全体を覆っていた。

窓ガラスは割れ、その破片は湿った土の上に散らばっていた。

この季節、セミの鳴き声が聞こえないのは病院の周辺だけ。

夏希は視線を感じ、上を見る。

そこは病院の三階の窓。

一瞬だが、誰かと目が合った。

夏希にとってこの世の者ではない者と目が合うなど、日常茶飯事である。

いつもは何とも思わないが、この時ばかりは背筋がゾワッとした。

何も感じない勇と旬は、立入禁止の黄色いテープの張られた病院の入り口前で夏希を待っていた。

「早くしろよ」

勇が少し離れた夏希を呼ぶ。

「ゴメンゴメン」

夏希は小走りで2人の元へ向かった。

「何か居たの?」

恐る恐る旬が尋ねる。

「うぅん」

夏希は首を横に振る。

「早く中入ろうぜ」

当時は自動ドアだったのだろう、ドアを力任せに勇と旬が左右に押し開く。