あの日、初めてココに来た時は夏なのに冷たい風が吹いて、虫の声も聞こえなかった。

だが今は違う。

温かい風が吹き、虫の声がうるさいぐらい聞こえる。

もうこの病院は呪われてなんかいない。

3人は手を合わせる。

夏希は瞼を閉じ、成仏した尚子の事を思い浮かべた。

『好きな人だっていたのに』

あの言葉が鮮明によみがえる。

尚子は自分の想いを伝えられないまま死んでしまった。

その事に夏希は自分の想いを伝えなければと、そう思った。

「おい、もう行くぞ」

いつまでも手を合わせている夏希を、恋人である勇が呼ぶ。

「うん、わかった」

夏希は勇と旬の元に走って行った。

そんな3人の後ろ姿を、手を振りながら微笑む尚子。

尚子は青に変わる空を見上げ姿を消した。

『ありがとう』

そう呟いて。




          ≪了≫