「ねぇ先生、牛って人間に食べられるために生きてるのかな」

「少なくとも牛は、そうは思っていない筈ですが」

「でも、結局は殺されて食べられるよ。鶏も、豚も。犬とか猫とかなら、人間に可愛がって貰えるのに」

 川嶋は数学から話が逸れまくっていることが気になったが、真面目な性格上、無視は出来ない。

「犬や猫を食べる国はありますよ」

「……」

 斎藤は何だかとても泣きたくなった。すき焼きなんて食べなければ良かった。
 俯く斎藤に、川嶋はまた悩む。斎藤という生徒は、難しい。

「せっかく生まれたのに、どうして死ぬのかな」

 斎藤は、何も知らない幼い子供のような生徒だ。不意に大人をあっと驚かせるようなことを口にする。
 川嶋は斎藤の呟きに対する答えを考えた。苦し紛れに出たのは、

「次に生まれてくる存在があるからかもしれません」

 斎藤は川嶋を見た。川嶋は目を逸らしたが、再び斎藤を見据えた。
 斎藤は薄く笑って、

「そうだね。たまには減らないと、それを支えてる地球が重くなり過ぎて宇宙から落っこちちゃう」

 川嶋は斎藤の答えが気に入った。この生徒はなかなか面白いことを考える。






先生、どうして生き物は死ぬの*完