頭に過ぎるあの時の事。
あの人の表情。
あの言葉。

泣きそうになりながら
「お前なんかいなければ良かったのに。」と言った。
大好きだった人に裏切られた瞬間だった。

だからもう自分の中を人に見せないと決めた。
人の中も見ない。
傷付くのは自分なんだから。
だからお面を被り続ける。

さっきまで面白く見えていたテレビが今では無機質な物にみえた。観客の笑い声さえ偽りみたい。

いつまでも何も答えないあたしに痺れを切らせたのかもしれない。
残り僅かな量を残して箸を置く。

俯いたままのあたしには目の前の人がどんな表情をしてるのか分からない。


「俺はまだ書面に書いてある市ノ瀬しか知らない。

今日は市ノ瀬がムリしてることと、昔何かあったんじゃないかってこと位しか分からなかった。
けど何か話したくなった時は俺がちゃんと話し聞くし相談にも乗るから。

だからあんま溜め込むなよ。」