青春スパイ大作戦【短編集】


どっこいしょ。

と、聞こえてきそうな感じで、男は再び浴場の隅っこの席に腰を下ろすと、再び体を洗い始めた。

あれ?さっき洗ってなかったっけ?

一瞬、そんなことが頭によぎった。

いや、単に潔癖症なだけなんだろう。男のくせに、細かいやつだぜ。

男がどかなければ、壁によじ登ることは不可能。
オレは、舌打ちをしつつも、もう少し待ってみることにした。

おそらく、身体を洗い終えればもう風呂を出るはずだ・・・。

しかし、男は頭も洗い始めた。

くっ、頭も二回洗うのかよ。こんちくしょー。
だが、ここは我慢だ。ここを乗り越えれば・・・。

女湯からは天使たちの歌声が未だに届いている。
楽園を、天使たちの楽園を。

貧乏ゆすりも限界に達したところで、男は頭を洗い終わった。

散々待たせやがって。
だが、今回は天使たちに免じて許してやらー!