「あっ、満月だ!」
見上げるとそこに、夜に逸れた月が光を放っていた。
「本当だ!」
隣の女が空を見上げそうにつぶやく。
「all明けにこんなきれいな月が見れるなんて得した気分。」
クラブ帰りのB-GARLたちのテンションはまだ下がっちゃいない。
夜明け間際の空は闇と光を同時に放っていた。
そんな朝のことだった。俺が彼女に心を奪われたのは。

「あぁ、なんとも美しい。」
酔ったオヤジのたわごと、俺はその言葉に振り返ってしまった。
BAR1999.客に手を振る一人のホステスと目があった。
こんな古びた飲み屋にこんな美しい女がいたなんて。
俺はこのクラブで7年間R&BのDJをしている。
毎度帰りにこの道をあるいていた。
だけど俺は、キャバクラに足を運ぶほど落ちぶれちゃいないと、気に留めたことなど一度もなかった。その俺が一人のホステスに心を奪われるなんて。
こっちから女に声を掛けるなんて、中坊のころ以来じゃないかって笑える気分もした。

一歩店に入り一人の女を指名する。
「華月さん入りまーす」
スタッフがそう大声で叫べば、他のホステスは皆、苦々しい顔をみせた。
他のホステスは一気に霞み、存在すらなくなったかのようになるからだ。
彼女はの妖艶さに心を奪われないものはいない。
源氏名、華月(かづき)
不動のNo.1ホステス。
その界隈で知らぬものはいない。

俺がそのことを知るまでに、そう時間は要さなかった。