俺はKOUの隣のパイプ椅子を引いた。

「彼女のことでな・・・。」
その瞬間俺は思い切り吹いた。
「バッカ彼女って・・・。一人の女?何でそんなもんでめげなきゃいけねーんだよ。世界の半分は女だぜ?もっと周り見渡してみろよ!今日だってお前目当ての女はこのフロアーにうようよしてるぜ!お持ち帰り自由自在ってもんだよ。」
俺のその台詞をきいてKOUは嘲笑うかのように鼻で笑って見せた。
「SINYAお前にはわからねーかもしれねーが俺にはアイツしかいねーんだよ。俺はアイツ以外は考えられない。」
KOUは俺にそうきっぱりと言い切った。
俺はその言葉に腹ただしさを感じた。
「勝手に言ってろよ。」
俺はポケットからタバコを取り出しターボでそれに着火した。

「たまにこれでいいのかって思うことがある。」
KOUは俺が吐き出し、頭上にたまったタバコの煙を眺めながら言った。
「俺の人生はこれで正しいのかって。」
「どういうことだよ。」
「やりたいことをやってるだけでいいのかってことだよ。俺たちぐらいのレベルのやつはいくらだっているだろう。一生やっていけるほどのスキルを今の俺たちは持ち合わせちゃいねーってことだよ。クラブやライブハウスはここだけじゃねぇんだ。いつまでこのままでいていいのか、かときどき解らなくなることがある。」
確かにそうだった、CDがバカ売れするわけでもなけりゃ、これだけで食っていくのには無理があった。若手の野郎どもも確実に俺らに近づこうともがいている。
実際俺も週末を除き昼間の平日はパチ屋の店員をしていた。
だけど俺はこう答えた。
「俺はいけるとこまで、いつまでだってやってくつもりだ。」
数秒の沈黙が流れた。

「なぁSINYAお前は一人の女を好きななったことはあるか?」
その瞬間、走馬灯のように週末になるたび入れ替わり立ち代り、抱いては捨てた女を思い浮かべようとした。
しかし顔が思い浮かんでくる女は誰ひとり存在しなかった。

「いねぇな。」
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