ペセンは二人はいらねぇ

「SINYAお前今度の新曲マジでいいよ。」
「おぉ。」
当たり前だろ、返事をするのと同時に俺は心の中でそうつぶやいた。
KOUとはもう十年このredstarでマイクを握り続けている。
時にバトルで争ったこともある。
まさによきライバルでありよき戦友だった。
だけど一つだけ俺たちには違うところがあった。


「お前また昨日も知らねー女抱いたのか?お前のあそこはマシンガンか?」
KOUは俺にそう言って俺の肩をぽんと叩いた。
「マシンガンどころじゃねぇ。俺の下半身は無敵の大砲だ!」
俺は下半身を前に突き出し両手を腰にあてて見せた。
KOUは笑って俺の隣を歩いた。

昨日俺はクラブで知り合った女を抱いた。
俺に近づこうとしてくる女はすぐに俺に体を許す。
昨日の女はいい声で鳴いた。俺の耳元で好きだと叫びながら。
女は何時だって、俺の言いなりになる。
俺に落とせない女などいない。

「SINYA新しいバックトラック持ってきたぞ。」
時にホストでDJもこなすスーさんが新しい音響系バックトラックを持ってきた。
「あざっす!」
俺は早速それを部屋に持ち帰り思うがままにリリックを載せる事にした。
思うがままにのせるリリック。これが俺にとってのHIP HOPの醍醐味といえた。
俺は直球で深いリリックが好きだ。
暴力的だのエロイだの言われようとも。
パズルみたいに思いをぶち込むのは俺にとってスゲー楽しい作業だった。
意味のねぇーワードを繋ぎ、時に不満を思い切りぶつけた。
どんなことだろうと、俺はそこに乗せることができた。
ただ唯一かけない詩があった。それはにひたむきでせつないライム。
そのパートはKOUの得意分野でもあった。
だけど俺はそんなことは気にしない。
常に豪快なフローをぶちかまし続けたいからだ。

ある日楽屋でKOUがさえない顔をしていた。
俺はすぐに声を掛けた。
「おいおいMC KOU!!さえねー顔してんじゃねーかよ、シケた面下げてんなよ。今日のオーがナイズは俺らだぜ!!」
KOUは軽く俺に微笑んだ。
「そうだな。」
その言葉はあまりにもそっけない。
「何だよ、悩みでもあんならいってみろよ。」