明るい日が差し込んでくる病室をぐるりと見渡した。


(よし、忘れ物ない。)


その時ちょうどドアをノックする音が聞こえて私は短く


「どうぞ。」


返事をした。すると部屋に入ってきたのは芯さん1人で夜琉が居ないことに少し寂しい気持ちになった。


「準備出来ましたか?」


いつも少し冷めた目をする芯さん、相変わらず綺麗な整った顔。


「ばっちり。髪切ったんですね。」


以前首元まであった綺麗な焦げ茶な髪は短くなっており、ツンツンしていた。


「…これから、私は組に戻るつもりです」


「…え?」


「夜琉の父親の父親、つまり夜琉の祖父に当たる人が私の唯一上にたつ人。私は長谷組の若頭です。」


「…。」


なんとなく‘やっぱりな’という気持ちになった。確かに芯さんは掴めないし、よく分からない部分が多すぎた。


「びっくりされないんですね。」


「どこか心の奥で思っていた部分があるんですよ。」


「…流石。もう今日が最後になります、夜琉の世話役は。これからは黒い黒い世界で生きていかなければなりません。」


「…っ」


「……―この髪は、その覚悟です。

忘れ物なかったですか?もう行きましょう。」


何も言えなかった。いや言う暇さえ与えてくれなかった。