「でも、本当に悪かった―…。痛かったろ?」
「大丈夫。そんなにか弱くないし。」
そう言って‘ふふっ’と笑った由莉さんは嬉しそうで。
やはりさっき夜琉がくれた返事が喜ばしかったのだろう。
その後も二人は穏やかな雰囲気の中、他愛ない話をしながら笑い合っていた。
でも夜琉の中では激しい怒りと憎しみが入り交じっていて、それを隠すのに必死になっていた―…。
その頃俺は医者から説明を受けていて、頭をバットで殴られたような衝撃を受けていた。
―――――――
医者と看護師が目の前でやり取りをしているのを観客的にただ眺めていると、思いだすのはさっきの夜琉。
‘――…由莉さんだけじゃない、お前を支えに生きている人間は他にもいるんだ。’
‘――由莉さんだけを生きる意味にするな。’
俺がそう夜琉に言ったのは、
(俺はいつまでも夜琉の面倒を見ないといけない)
と、心のどこかで思っている自分がいて。
でも、
‘…―お前は俺にこれ以上何を望む?’
と夜琉が強い意思をもって言い返してきたとき、もう俺の役目は、世話係は終わったんだと思った。
もう夜琉は俺が居なくても、大丈夫。
夜琉はもう大切なモノを存在を見つけて、それを必死に守ろうとしている。
強い意思と、まっすぐな心。
いつまでも夜琉の面倒を見ると思っていた俺は心にぽっかりと穴が空いたようで、俺だけが夜琉を世話していた訳じゃないと知った。
俺も夜琉に助けられていたのだ、と。
ひどく寂しい気持ちになっているところに、医者と看護師は話を終えて俺に分かりやすく由莉さんの容態について説明を始めた。

