「ねえ、今度さ。」

話のついでに、当たり前のように、自然に私の手をとる。


彼から好きだと告げられた時。
おしゃべりが上手で、会話べたな私でも、一緒にいて楽しくて。
断る理由もなく付き合うことになった。

その日からずっと、私と会うときはいつも、右手を繋いでくれる。

「こうしてるとさ、なんだか幸せなんだ」

無邪気に、どこかはにかんで笑う彼が可愛く思えて。
こんな私といても、そう思ってくれることがうれしくて。
繋がれた手をそのままに、これが恋なのかもしれないと思ってた。


そんな日々の中、再び君と出逢った。

昔、ずっと好きだったけれど、彼女ができたと噂を聞いてあきらめた人。
やっと、あきらめられた人。


秋の始まりの夜、虫の鳴き声の中。
無口な君と交わす会話は、本当に少なくて。
ここで偶然会わなければ、こんな時間をすごすこともなかったのだと思い知らされた。


遠くで季節外れの花火が打ちあがる。

今頃珍しいね。
ああ。

それ以上の言葉もなく。
だけどそんな時間も嫌ではなく。
ただ黙って打ち上げられた花火を見つめていた。

この時間がずっと続けばいい。
いつしかどこかでそんなことを思いながら。


やがて花火が終わって、ここにいる理由もなくなった頃。
またね、と告げて、君のそばを離れようとしたときだった。

「!!」

左手を、不意につかまれる。
止まりそうな心臓。

何も言わないけれど、その手から伝わってくる。
君の気持ちが、痛いほど。


どうしよう。
どうしたらいい?


心の中で問いかけながら、その手を離せない。
このままでいたい。
その手を強く握り返しながら、これは運命なのかもしれないと思った。