子どものころから、毎年、どこからか香るその香りが、金木犀という花だと知った頃。
私は、君に出逢った。


「いいにおい」
「あのオレンジの花。きんもくせい、って言うんだって」
「きんもくせい?」
「そう。しろいのは、ぎんもくせい」


初めての会話。
君の名前を知るより先に、花の名前を知ったあの日から。
もしかしたら、こうなることが決まっていたのかもしれない。



あれからずっと、君は私のそばにいて、いつも見守ってくれていた。
子どもから、少し大人になった今も。
それが心地よくて、幸せで、ずっとこのままでいたいと思ってた。


だけどそう思ってたのは、私だけで。


ううん。


本当は、気付かないふりをしていたのかもしれない。



「俺がいなくなっても、寂しくて泣くなよ?」
「……泣かないよ」


来月から留学すると知らされた日。
君の言葉にも、私はうまく返せなくて。
一生懸命、こみ上げる涙を抑えることで精一杯で。

2年は帰ってこない、という事実がまだのみこめなくて。


「待ってろなんて言えないけど。黙ったままじゃ後悔するから」
「……」
「俺、お前が好きだったよ。子どもの頃から、ずっとさ」


変わることが怖くて、気付かないふりをしていたのかもしれない。
君の気持ちにも、心の奥に眠ってた、本当の自分の気持ちにも。



どこからか香る、金木犀の香りと。
涙の味が混じって、二人の想いを溶かしてく。


もう少し、大人になった頃。
君と私の何かがまた、変わるのかな。


それはきっと、再び季節が巡って、金木犀の咲くころに。